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所要時間 40分ほど
あらすじ 封戸探偵事務所に依頼にやってきた高校生の札木玲花。彼女の高校では、連続失踪事件が起きていた。警察なども捜査にあたっているが一向に見つからない行方不明者たち。玲花は学校の七不思議の一つである「美術室の美加子さん」が関わっているのではと考え、玲花と封戸探偵事務所の助手、一香と二美とともに調査に乗り出す。


登場人物

杉野咲智(すぎのさち)……22歳女性。花乃高校の教師。科目は現国。黒髪を一つ縛りで束ね、丸メガネをかけている。物静かだが、仕事はでき、生徒からも好かれている。玲花のクラスの副担任。

美加子(みかこ)……12歳くらいの見た目をした少女。美術室に入り浸る幽霊。気が強く、明るい性格。

札木玲花(さつきれいか)……女性16歳。ごくごく普通の女子高生。幽霊が見える特異体質。1年c組、杉野が副担任を務めるクラスに所属している。

霊一香(みたまいちか)……女性、18歳。封戸(ふご)探偵事務所の助手。元気でお調子者。二美の双子の姉。人の体と幽霊の体を使い分けることができる特異体質。

霊二美(みたまつぐみ)……女性18歳。封戸探偵事務所の助手。年齢の割には落ち着いていてクール。本来触れられるはずのない幽霊に触れることができる特異体質。







美加子 幽霊が怖いんでしょ?


    大丈夫。


    ……があなたのこと、守ってあげるから。


ピピピピピピ

(スマホのアラームが鳴る)


咲智  なに今の……夢?


(スマホを覗き込む)



咲智  はあ……


咲智  ……なんだろう?何か……大事なことを忘れているような気がする。




(早朝。花乃高校美術室)


美加子 ねえ、もうすぐ百日草が咲くの。「不在の友を想う」……私はずっとずーっと想ってきたのに。どうして……どうしてなの……



(放課後。封戸探偵事務所。一香、二美、玲花がなにやら話をしている)


一香  クラスメイトたちが次々と行方不明になってる?

玲花  あれ?知りませんでしたか?

二美  花乃高校で起きてる連続失踪事件ですよね?ニュースや新聞なんかでも取り上げられている。

一香  え?そんな大ごとになってるの?

二美  人ひとり消えれば大ごとにもなります。ましてやそれが複数人ともなると。今行方不明になっているのは確か……

玲花  4人です。

一香  そっかー。ニュースとか見ないから知らなかった。

二美  そもそも姉さんは世の中のことに関心がなさすぎなんです。少しは目を向けてください。

一香  うわーでた。二美ちゃんのお説教。

二美  私たちは探偵の助手なんですよ?少しは事件の情報なんかを入れておいてください。

一香  でもー、そんなのなくてもなんとかなってきたじゃん?

二美  それは私が……

玲花  あ、あの……お話しても?

一香  あぁ、ごめん。

二美  失礼しました。今はご依頼の話でしたね。まさか玲花さんのクラスメイトだったとは……

玲花  正直戸惑っています。私の近くで次々と人がいなくなっていくなんて……

二美  心中お察しします。

一香  玲花ちゃんはさ、この事件、幽霊が関わってるとみてる、ってことだよね?

玲花  えっと……

二美  そうでなきゃ、うちにはきませんもんね。

玲花  ……確証はないんですけど、一つだけ、心当たりがあるんです。

二美  心当たりとは?

玲花  「美術室の美加子さん」です。

二美  美術室の……

一香  美加子さん?

玲花  うちの学校の美術室に取り憑いてる幽霊で。私以外にも目撃情報があったりして、学校の七不思議としても有名なんです。

二美  玲花さんは美加子さんと面識があるんですか?

玲花  いや、面識……ってほどではないんですけど。見えてはいて。可愛らしいいつもニコニコしてる女の子だから気にもとめてなかったというか……

一香  その子の様子がおかしいってこと?

玲花  ええ。失踪事件が起きるくらいからあまり見かけなくなって。たまに出てきたかと思うと別人のように怖い顔をしていて……

二美  ……

一香  二美ちゃん、難しい顔してるけど?

二美  無害だった幽霊が突然悪霊化することはよくあります。もしかしたら悪霊化した美加子さんが、玲花さんのクラスメイトたちを襲っているのかも……

玲花  ……

一香  なるほどね。で、その可能性があるかも、と思ったからここにきたってこと?玲花ちゃん。

玲花  ……はい。保護者も、警察の人も、一生懸命に行方不明になった子たちを探してくれてますけど、誰一人見つかってなくて……

一香  なるほどね。

玲花  これだけ探して見つからないっておかしくないですか?しかも4人も。私には人のやったことだとはどうしても思えなくて。

一香  どう思う?二美ちゃん。

二美  ……調べてみる必要はあるかと。事件に関係なくとも、その美加子さんには会っておくべきですね。

玲花  じゃ、じゃあ、引き受けてくださるんですね!あっ……でも私お金あまり無くって……

一香  いーよいーよ。

二美  通常の探偵業務であれば別ですが、霊が関わってる事件に関しては、私たちはお金をいただかないこともあるので。

一香  依頼主がユーレーとかだったらお金ないこと多いからね。

玲花  そんなんで大丈夫なんですか?この探偵事務所……

二美  大口は所長が受け持っているので。まあ、私たちの方も、修行の一環みたいなものですよ。

玲花  修行……

一香  所長曰く、私たちはまだまだ経験が足りないんだってさ。そんなことないと思うんだけど。ねえ?

玲花  えっ、えーっと……

二美  はあ。玲花さんを困らせないでください。では、とりあえず明日の放課後、高校へ伺うことにしましょう。今日はもう遅いですし。

玲花  あ、はい……お願いします。

一香  早速現場だね!ワクワクだ!!

二美  あまりはしゃぎすぎないでくださいよ。



(翌日の放課後。花乃高校校内。制服を着た玲花、一香、二美が美術室に向かっている)


二美  ……やはり無理があったんではないですか?

一香  え?なに?まだ言ってるの?

玲花  無理……はないと思いますよ?お二人とも私とそんなに年齢変わらないですし。

二美  そうかもですが……学校に潜入するから制服着るって、ベタもベタすぎません?

一香  しょーがないじゃん、他に思いつかなかったんだもん。それに、一度着てみたかったんだよねー。制服って。

玲花  着たことないんですか?

一香  うん、ないよ。

二美  色々事情があって学校には通っていないんです、私たち。勉強は全部事務所でやってましたので。

玲花  そうだったんだ……

一香  だから少し憧れ?みたいなのはあるよね?二美ちゃん?

二美  私は別に……

一香  嘘つきー。

二美  コホン。それより、美術室は確か。

玲花  もうすぐです。あほら、あそこ。

二美  今の所、霊の気配はないですね。姉さん、少し見てきてくれますか?

一香  はいはい。ユーレーの姿になればいいかな?

二美  そっちの方が動きやすいでしょう。

一香  それもそうだ。それじゃ、いきますかね。

(幽霊の姿に変化し、美術室へと向かう)

玲花  ……一香さん、息をするように幽霊体になれるんですね。

二美  幼少期からの特異体質ですからね。息をするのとあまり変わらないんでしょう。

玲花  二美さんの能力も小さい頃からなんですか?

二美  ええ……物心ついた頃には、もう備わってました。

玲花  そうなんですね。封戸さんにもそういう能力が?

二美  所長は……

一香  (遠くから)ねーえー?

二美  そんな大声出さないでください。霊が逃げてしまいます。

一香  大丈夫。誰もいないから。私だけじゃ色々見落としそうだから2人とも来てよ。

二美  はあ。相変わらず声の大きいこと。行きましょう、玲花さん。

玲花  あ、はい。


(美術室)


玲花  ……なんだか、不自然なくらいに静かですね。

一香  確かに。なんだか居心地が悪い。

二美  もう少し見てみましょう。何か手がかりがあるかもしれないですし。



玲花  薄暗いですね。外そんなに天気悪くないですよね?

一香  気味悪ーい。

二美  全体に気配はあるのに、どこにいるのかがわからない……

玲花  ……あれ?

二美  どうしました?

玲花  こんなところにキャンバスなんてあったっけ?

一香  さあ?私らは今日初めましてだからどうだったか……

二美  ここに描かれているのは人……?

一香  すごいセンスだね。禍々しい。

玲花  美術部の作品……かな。こんな作風の人見たことないけど。

一香  そういえば今日、部活は?ないの?

玲花  確か今、美術室じゃなくて別室使ってるって話でした。行方不明者が出た頃からだったと思うんですけど。

一香  ふーん。やっぱり事件と関係しているのかな?この美術室とその、美加子さん?

美加子 ……呼んだ?

二美  え?

玲花  きゃっ!

一香  え?は?どこから出てきたの?

美加子 ねえ、誰?あなたたち。見ない顔ね?

二美  もしかして……

一香  美加子さん?

美加子 まあいっか。そんなこと。それよりも美加子と遊んでよ。美加子……寂しいの。

一香  ねえ、二美ちゃん。これやばくない?

二美  ええ。玲花さん。ここは一度引きましょう。

玲花  え?ああ、はい。

美加子 ねえ、待ってよ……美加子と一緒に……遊んでよ……



(別館。美術室から離れたところ)


一香  はぁ……はぁ……あいつ、ここまでは追ってこれないみたいだね。

二美  場所の名前を冠する幽霊っていうのは、そこから離れられないものなんですよ。

玲花  ……。

二美  どうしたんです?

玲花  いや、美加子ちゃん、あんな感じだったかなって……

二美  どういう意味です?

玲花  事件前に見た美加子ちゃんはもっとニコニコしていました。

一香  言ってたね。

玲花  事件が起こった後にも見かけたけど、あそこまで怖い顔はしていなかった。

二美  ……美加子さんが姿を見せた時、禍々しさを感じました。

玲花  それって……シロのときと同じ……

二美  いいえ。シロほどの強力なものではありません。しかし……

一香  あのまま放っておけば、美加子ちゃんも悪霊化しちゃうかもね。

玲花  そんな……

二美  なんとかして止めなくては。

玲花  え?そんなこと……できるんですか?

一香  まだ悪霊になったわけじゃないからね。今ならまだ引き返せる。

二美  問題はどうして悪霊になりかけているのか。それさえわかれば止めようがあるんですが。なにぶんヒントが少なすぎる……

玲花  それだったら。聴いてまわればいいんじゃないですか?

一香  美加子ちゃんのこと?

玲花  霊感がなくても、美加子さんの噂はみんな知ってます。同級生もそうですし……あと、うちの副担任がここの学校の卒業生なんです。だからもしかしたら何か知ってるかも。

一香  地味な仕事だけど、片っ端から聞いてみるしかないか。

二美  地味だなんて言わないでください。探偵の本分です。

一香  はいはーい。

二美  全く、わかっているんでしょうかね。では玲花さん。

玲花  は、はい。

二美  学校に残っているであろうクラスメイト、あと副担任からもお話を聞きたいのですが……生徒の方はこちらで聴くので、玲花さんは先生からお話を聞いてもらってもいいですか?

玲花  私が、ですか?

一香  探偵だからって不法侵入していいわけじゃないからね。

二美  先生の目は欺けそうにないですし。

玲花  確かに……それはそうですね。わかりました。杉野先生にお話聞いてきます。

二美  すみませんがお願いします。


(職員室。咲智のところで玲花が話を聞いている。)


咲智  美術室の……美加子さん?

玲花  え、先生、知らないんですか?

咲智  ええ、聞いたことないわね。

玲花  先生が在学中のときもですか?

咲智  ええ。小学校の時とか、他の学校の「トイレの花子さん」はよく聞くけど……そんな特殊な七不思議があるのね、この学校。

玲花  あ、あれ……?

咲智  そんなことより意外。

玲花  え?

咲智  玲花さん、そういうオカルト的なことに興味があるのね。

玲花  あ、いや、そういうわけでは……

咲智  私もむかーしは幽霊が怖かったなんて思っていたことあったな……

玲花  そうなんですか?

咲智  まあ、多かれ少なかれみんな通る道だと思うけどね。私は特に怯えていたみたいなのよね。ああ、ごめん、自分の話になっちゃった。

玲花  いえ、大丈夫です。

咲智  ……もしかして、今起きてる失踪事件も幽霊のせいだと思っていたり?

玲花  えーっと……

咲智  ……そう考えてしまうくらい、ショックなことよね。

玲花  ……

咲智  ごめんなさい。あなたたち生徒にも精神的負担をかけてしまっているよね。

玲花  先生……

咲智  でも、あまり気に病みすぎないでね。こっちのことは私たち大人がなんとかするから。

玲花  は、はい。



(教室。玲花、一香、二美がいる)

一香  あ、玲花ちゃん。

二美  すみません、遅くなりました。

玲花  いいえ。そんなに待ってないので。それより何か成果はありましたか?

一香  うーん。あんまり。

二美  確かにみなさん、美加子さんの噂は多かれ少なかれ知っていたんですけど、それ以上の情報は得られませんでした。

一香  人を襲うとか、連れ去っちゃうなんてのも一切聞かなかったよ。

二美  玲花さんの方はどうでしたか?

玲花  私の方も全く。先生、噂すら知りませんでした。

一香  えっ。

二美  それ、本当ですか?

玲花  え?どうしてです?

二美  生徒の中には、お姉さんやお父さん……身内の方がここの学校の卒業生という方がちらほらいました。

一香  みーんな少なくとも美加子ちゃんのことは知ってたんだよね。

玲花  え?

二美  つまり、この学校の生徒であったのなら、知っている噂のはずなんです。

一香  中には先生と同年代のお兄ちゃんとかもいたんだっけ?その人から聞いていたって話もあったから、先生も知らないはずないんじゃない……かな?

玲花  え?じゃあ先生はなんで……?

一香  実はここの卒業生じゃないんじゃない?

二美  そこ嘘つく必要あります?

玲花  先生と話をしていて、嘘をついていたり、誤魔化したりしているようには見えなかったけど……

一香  何か理由があって忘れちゃってる……?

二美  とにかく、先生はこの騒動を解決するための鍵になりそうですね。

一香  アプローチしていきますか。

玲花  どうやって?

一香  話が通じるうちにもう一度美加子ちゃんのところに行こう。

二美  そうですね……相手がどういう状況なのか、今回はわかっていますし、これ以上時間経過してしまうとお話どころではなくなってしまいますからね……

玲花  ……戻るんですか?

一香  あ、玲花ちゃんは無理に、とは言わないよ。玲花ちゃんは探偵じゃなくて依頼人だからね。

二美  校内のことも大体把握しました。後のことは私たちに任せてもらっても大丈夫ですよ。

玲花  ……いえ、行きます。

一香  本当に大丈夫?

玲花  はい。少し怖い気持ちもありますが……ここまで知ってしまったら気になってしまうので。いなくなってしまったクラスメイトのことも気になりますし。

一香  その事件とも繋がっていてくれたらいいけどね。

二美  じゃあ、もう一度行きましょうか、美術室へ。


(玲花、一香、二美が美術室へとやってくる)

玲花  いませんね。美加子さん。

一香  みーかーこーちゃーん!

二美  ちょ、声大きすぎません?

美加子 なあに?

玲花  きゃっ。

一香  うわ、いた。

美加子 あら、さっきの人たち!美加子と遊んでくれる気になったの?

玲花  え、いや……

二美  私たち、あなたに一つ聞きたいことがあるんです。

美加子 ふぇ?

二美  「杉野咲智」ってご存知ですか?

美加子 咲智……さっちゃん……?

玲花  その反応は……知っている?

美加子 さっちゃんは……さっちゃんは……私のことなんて……

二美  力が……増している?

一香  ねえ、これ、地雷踏んだんじゃない?

美加子 寂しい……寂しい……

玲花  美加子さん……

美加子 あなたたちもどうせ、さっちゃんみたいに私のことを見捨てるんでしょ?

玲花  ……?

美加子 だから、見捨てられる前に……私があなたたちを閉じ込めちゃう。(絵の描かれたキャンバスを手に取る)

一香  絵の描かれたキャンバス……?

玲花  待って、あれって確かおどろおどろしい人々が描かれている……

二美  まさかあの絵って……行方不明になった人たちが閉じ込められているのでは……?

一香  犯人みーっけ。これで事件解決……と行きたいところだけど、このままじゃ私たちまで絵の中に飲み込まれちゃうよ?

美加子 ねえねえ。美加子をもう一人ぼっちにしないでよ……どこにも行かずに、一緒にいて……


(咲智が美術室の扉を開ける)


咲智  なんの音?こ、これって……

玲花  先生!

美加子 ……さっちゃん?……ううん、でもさっちゃんにはもう私は見えないはず……

二美  もう……見えない?

一香  どういうこと?

咲智  なにこれ……一体なにが起きてるの?

玲花  先生……逃げて!

咲智  あれ……女の子……幽霊?

美加子 え?

咲智  あなた……あなたは……美加子……ちゃん?

一香  え?

玲花  先生……見えるの?それに美加子ちゃんって……先生は美加子さんのこと知らないんじゃ……

美加子 さっちゃん……さっちゃん……私が……見えるの?

咲智  美加子ちゃん……そうだ……美術室の美加子ちゃん……思い出した。



(回想)


咲智  『幼い頃、私の目には不思議なものがたくさん見えていた。一般的に「幽霊」と呼ばれるものだ。私はそういうのが見えるのが……とても嫌だった。だって普通に怖いから。人とあまり変わらない姿をしているものもいるけれど、中には気味の悪い姿をしているものもいて、幼い私には恐怖の対象でしかなかった。

 そのせいもあり、私は外に出ると常に怯えていた。周りからは不思議な目で見られ、友達もいなかった。』


美加子 ねえ。美加子のこと、見えてるんでしょ?


咲智  『怯えながらも私はなんとか高校に進学した。進学先で出会ったのが美術室に住み着く幽霊の女の子。彼女は幽霊だったけど、今まで見てきた幽霊とは少し違っていた。見た目がとても可愛くて……そして優しかった』


美加子  一緒に遊ぼ。お友達になろう。

     あなた、他の幽霊が怖いんでしょ?大丈夫。だったら美加子があなたのこと、守ってあげる!  


咲智  『私は時間を見つけては彼女のところへと行った。たわいもない話をして、お弁当を食べて……私が生まれて初めて感じることができた安心感。おかげで私は少しずつ、学校生活にも馴染むことができた。だけど、美加子ちゃんといつまでも一緒に過ごせるわけではない。高校は3年間しかいられないのだ』


咲智  美加子ちゃん。私たち、今日でお別れなの。

美加子 うん……

咲智  私……寂しいよ……

美加子 私も寂しい。だけど、しょうがないもんね。

咲智  ……私ね、高校の先生になろうと思うんだ。

美加子 そうなの?……うん。さっちゃんならきっとできるよ。

咲智  高校の先生になって、またこの学校に戻ってくる。

美加子 え?

咲智  そうしたら、美加子ちゃんも寂しい思いしなくていいでしょ?

美加子 う、うん。

咲智  私頑張るからさ。少しだけ、待っててくれる?

美加子 百日草。

咲智  え?

美加子 美術の先生が好きな花。

咲智  そうだね。

美加子 先生が前に授業で言っていたの。百日草の花言葉。「不在の友を想う」「いつまでも変わらない心」

咲智  うん。

美加子 私も百日草みたいに、変わらずに毎日毎日、さっちゃんのことを想っているね。

咲智  うん。

美加子 さっちゃんが先生になって帰ってくるの、美加子、ずっと待ってるから。

咲智  うん。


美加子 『美加子は……待ってたの。さっちゃんのこと。美加子のことが見えて、遊んでくれる子は他にもいたけど、こんなにずっといてくれたのはさっちゃんが初めてだったから。4年待って、さっちゃんは約束通り、先生になって学校に、この美術室に戻ってきてくれた。でも……』


美加子  さっちゃん!さっちゃん!

咲智   ……

美加子  さっちゃん……?

咲智   ……


美加子 『4年の間になにがあったのかわからない。でも……帰ってきたさっちゃんに、美加子の姿は見えていなかったの』


咲智  『私の日常に美加子ちゃんがいなくなってしまって、また幽霊に怯えるようになった私は……幽霊がいないものだと思い込むことにした。そうじゃないと大学生活なんてとても送れないから。いつのことだったろう。そういうものが見えなくなってしまったのは。そして幽霊のことも……美加子ちゃんのことも忘れてしまっていたのは』


(回想終わり)


咲智  ごめんね、美加子ちゃん。私……怖いことを見ないようにしていたら、美加子ちゃんのことも忘れて……見えなくなってた。

美加子 ……

咲智  美加子ちゃんが寂しい思いをしないようにって、約束したのにね。本当に……本当にごめんね。

美加子 ねえさっちゃん。

咲智  なに?

美加子 思い出してくれて、ありがとう。

咲智  ううん。ごめんね、本当にごめんね。


二美  あの……水を差すような真似をしてしまい、すみません。

咲智  えっと……あなたたちは?

一香  私たちはこーいうものです!(名刺を差し出す)

咲智  えっと、「封戸探偵事務所……霊一香」……探偵さん?

二美  こちらにいる札木玲花さんのご依頼で、ここ花乃高校で起きている失踪事件について調査させていただいていました。

咲智  そう……だったんですね。あの、あなたたちにも美加子ちゃんが見えているんですか?

一香  うん。ちゃーんと見えてるよ。

二美  私たちは怪異や幽霊などが絡む事件も扱っておりますので。

咲智  もしかして……玲花さんも?

玲花  はい。見えてます、美加子さん。

咲智  そうだったのね……ごめんなさい、さっきはいい加減なこと言ってしまって。

玲花  私なら大丈夫です。気にしないでください。

咲智  ……失踪事件と、美加子ちゃん。一体なんの関係が……?

美加子 ……ごめんなさい。美加子、さっちゃんに無視されたのが悲しくて、寂しくて……遊んでもらいたかっただけなのに……また見捨てられちゃうんじゃないかって怖くなっちゃって……お友達を、絵の中に閉じ込めちゃったの。

咲智  えっ。

二美  そこの、人が描かれた絵。おそらくそこに描かれているのが今、行方不明になっている方々かと思われます。

一香  ねえ、さっちゃん先生も美加子ちゃんのこと思い出したことだし、そこに閉じ込められているお友達、出してやって欲しいんだけど、いいかな?

美加子 うん。迷惑かけて……ごめんなさい。さっちゃんも、生徒さんたちがいなくなっちゃって困ってたよね。ごめんなさい。

咲智  ううん。元を正せば、私が美加子ちゃんのこと忘れちゃったのが悪いんだもの。美加子ちゃんだけを責められない。

一香  まあ、人の命を奪うっていう取り返しのつかないことはしていないからさ、元に戻してさえくれれば丸く収まるんじゃない?

二美  だいぶおおごとではありますけどね……




(学校からの帰り道。玲花、一香、二美が話をしている)

一香  いやー。なんとか解決してよかったね。

二美  絵の中に閉じ込められていた人たちも、無事なようでとりあえずひと安心です。

一香  私たちが勝手に調査していたのも、さっちゃん先生、黙っててくれるって言ってたし、よかったよかった。

玲花  ……

一香  ん?どうしたの、玲花ちゃん?

玲花  ああいえ。霊感って私みたいに急に出てきたり、先生みたいに、急に無くなっちゃうことがあるんだなって、不思議に思っちゃって。

一香  幽霊とか怪異自体が不確定なものではあるからね。

二美  突然見えるようになったとか、見えなくなったとか……そういう事例も多くはないですがありますよ。

玲花  さすが、お二人は専門家なだけありますね。

二美  まだまだ半人前ですけどね。

玲花  あの。

二美  はい?

一香  どーしたの?急に改まって。

玲花  ありがとうございました。

一香  うん。どういたしまして。

玲花  ……また何かあったら、よろしくお願いします。

一香  もちろん。玲花ちゃんのお願いとあれば、いつでも駆けつけちゃうよ。

二美  こういうことに巻き込まれないのが一番なんですけどね。


(了)



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テスト劇にご協力いただきました。ありがとうございます!
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(敬称略)