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所要時間 15分ほど
あらすじ 1人のパティシエが森の近くでお菓子屋をはじめた。しかし客が一向に来ない。そんなある日、お店のドアが開いた。そこにいたお客様は小さなかわいい子グマだった。

登場人物

パティシエ……森の近くでお菓子屋を開く。パティシエなのにお菓子作りがあまり上手じゃない。

子グマ……甘いものが大好き、スイーツに憧れを持つ。可愛い見た目をしているが毒舌。




パティシエ 『ある春の暖かい日。僕は森の近くに、小さなお菓子屋さんを開いた。僕の小さな頃からの夢。それをついに叶えることができたのだ。だけど……』


パティシエ はあ……今日も暇だな……


パティシエ 『毎日毎日、いくら待ってもお客さんはやって来ない。やっぱり、街の方にお店を出すべきだったかな……そんなことを考えていたある日。扉のベルがカランカランと鳴り、あの小さなお客様はやってきた』


パティシエ いらっしゃいませ……ってええ!?

子グマ   邪魔するぞ。


パティシエ 『やってきたのは僕が予想もしていなかったお客様。ドアの半分くらいの背丈の……小さな可愛い子グマだった。』


子グマ   はあ。相変わらずここは繁盛してねえな。

パティシエ あ……え……?

子グマ   それにどれもこれも地味なケーキたちだばかりだ。まるでお前みたいだ。

パティシエ ……

子グマ   ん?どうした?失礼なやつだなとかなんとか言ったらどうだ?俺が言うのもなんだけど、言われっぱなしなのも良くないぞ?

パティシエ クマが喋ったあ!?

子グマ   ああそこ?

パティシエ いや、まずそこでしょ!?え、僕どうしてクマとコミュニケーションとってるの?夢?

子グマ   夢じゃねえよ。クマだって本気を出せば言葉くらい話せる。

パティシエ ……そうなの?

子グマ   そうだよ。今現に目の前で喋ってるだろ?それよりも。ケーキ食わせろ。

パティシエ は?

子グマ   俺は客だぞ?

パティシエ ……ああ、そうだった……そうなの?

子グマ   そうだよ。ケーキ食う以外に何の用があるんだよ。ここに。

パティシエ それもそうか……はい。じゃあ、ご注文は?

子グマ   そうだな……じゃあ、ショートケーキを一つもらおう。

パティシエ かしこまりました。

子グマ   ……

パティシエ ……お待たせしました。どうぞ。

子グマ   ん。(その場でケーキを豪快に食べる)

パティシエ おお。さすが。野生の動物は食べ方が豪快だ。

子グマ   ……

パティシエ ……

子グマ   まずい。

パティシエ は?

子グマ   ちゃんと聞こえただろ?ま・ず・い。

パティシエ えぇ。うそ。そんなバカな。

子グマ   嘘はついてねえ。

パティシエ ……

子グマ   まさか。気づいてなかった?

パティシエ え、うん……

子グマ   お前のお菓子屋が繁盛しないのは簡単なこと。置いてあるケーキがまずいからだ。

パティシエ てっきり場所が悪いのかと……

子グマ   ……全く、頭お花畑かよ。まずは基礎から、教える必要があるな。

パティシエ  え?

子グマ    ちょっとキッチン入るぞ?

パティシエ  え??ああちょっと待って!!


(お菓子屋の奥のキッチン)

子グマ    へえ。なかなか綺麗に使ってるんだな。もっとぐちゃぐちゃしてるのかと思ったぜ。

パティシエ  失礼な。

子グマ    さて。まずはお菓子作りの基本からだな。

パティシエ  そんなによくないの?僕のお菓子?

子グマ    ああ。その腕でよくお店開いたなってレベル。

パティシエ  うう……

子グマ    きっちり分量を計って作ってるか?

パティシエ  え?

子グマ    ……その様子じゃ適当だな?

パティシエ  お菓子って真心さえ込めれば美味しくなるんじゃないの?

子グマ    ……は?

パティシエ  確か……絵本で見たよ。

子グマ    君ってバカなの?

パティシエ  もっとオブラートに包んでくれるかな?

子グマ    そんなことでお菓子が美味しく作れるんだったら誰もパティシエなんてならねえの。

パティシエ  そういうもの?

子グマ    そういうもん。真心だどうだは二の次だ。まずは基本がしっかりしてなきゃ、なんも意味がねえ。

パティシエ  そうなのか……

子グマ    真心だなんだはちょっとしたスパイスなんだよ。

パティシエ  へー。なんかかっこいいこと言うね。

子グマ    ……えっ。もしかしてバカにされてる?

パティシエ  そんなつもりじゃなかったんだけど……

子グマ    まあいや。とにかく基礎だ。俺が教えてやるからしっかり覚えろよ。


パティシエ  『その日から数日間、僕はこの口の悪い子グマにお菓子作りの基本中の基本を叩き込まれた。子グマの指導はとても厳しかったが……僕はなんとか彼について行った。そして、子グマから教わったすべてを使って、ショートケーキを作った。初めて出会ったあの日にまずいと言われたショートケーキを』


パティシエ ……

子グマ   (ケーキを食べる)

パティシエ ……どうかな?

子グマ   ……

パティシエ ……

子グマ   うん。いい感じだ。

パティシエ よかった……

子グマ   これでやっとスタートラインだな。

パティシエ え?これでお客さん来るようにならないの?

子グマ   お菓子屋さんでケーキが美味しいのなんて当たり前だろ?

パティシエ それは……確かに。

子グマ   お客さんを呼びたいのであればもう一工夫しなきゃ。

パティシエ もう一工夫……たとえば?

子グマ   そうだな……このお店でしか売っていない目玉商品を作ったり。

パティシエ なるほど。

子グマ   今ならそれもできるだろう。やるか。

パティシエ えー。ちょっと休憩しようよ。

子グマ   そんな暇はない。さっさとやるぞ。

パティシエ 厳しいな……


(キッチン。一通り片付けをして子グマとパティシエが話をしている)


パティシエ 目玉商品ってどうやって考えればいいの?

子グマ   ……人に素直に聞けるのはいいことだけど、もう少し自分の頭で考えたらどうだ?

パティシエ 自分で考えられたらもっとお客さん来てるんだよ。

子グマ   こんなところで正論言うな。そうだな……パティシエが得意としているケーキをアレンジしてみたり……でも腕を試されるようなものはまだお前にはきついな。

パティシエ うう、悔しいけど確かに。

子グマ   あとは食材にこだわったりだな。この辺森が近いから色々採れるぞ。木いちごとか。

パティシエ 木いちごね……森の食材については君の方が詳しいかもね。

子グマ   いいもの知ってるぞ?

パティシエ 一番のおすすめは?

子グマ   ちょっと行ったところに蜂の巣があるんだ。そこにある蜂蜜がとてもうまい。

パティシエ ……前々から思ってたけど、そんな性格してるのに甘いもの好きとか可愛いね。

子グマ   性格は関係ないだろ。

パティシエ そうなんだけどさ……蜂蜜ね……君がそんなに美味しいと言うならぜひ使いたいね。

子グマ   まあいいんじゃないか?蜂蜜をどうする?

パティシエ うーん……スポンジに混ぜ込んでも良さそうだけどせっかくならもっと風味がわかるように使いたい気がする……

子グマ   そこまで考えられるようになったのは成長だな。

パティシエ え?褒められた?

子グマ   一度褒められたくらいで調子乗るなよ。

パティシエ 厳しい!!あ……

子グマ   どうした?

パティシエ チーズケーキはどうかな?

子グマ   ほう?

パティシエ チーズと蜂蜜って相性いいでしょ?だから美味しいはちみつを存分に活かせそうな気がする!

子グマ   うん。悪くないんじゃないか?

パティシエ ね?いいよね?

子グマ   ……クマのシルエットにするんだ。名前は「子グマのはちみつチーズケーキ」

パティシエ えー。なんかいいところ取られた気分!

子グマ   でも惹かれる名前だろ?蜂蜜が好きな子グマのチーズケーキ……話題をかっさらえそうじゃないか!

パティシエ  うう……実際そうだから反論ができない。

子グマ    だろ?決まりだ。じゃあ俺は早速森の奥から蜂蜜取ってくるから、試作の準備しておけよ。

パティシエ  うわ!!もう……こうと決めたらすぐなんだから……


(キッチン。子グマのはちみつチーズケーキが完成する)

パティシエ うん。なかなかいい感じじゃない?

子グマ   問題は味だな。どれどれ(チーズケーキを食べる)

パティシエ 相変わらず豪快に食べるよね……

子グマ   うん。文句なし。これならお客さんも来るんじゃないか?

パティシエ よかった。それを聞いて安心したよ……ねえ。

子グマ   ん?

パティシエ 今更なんだけど、どうしてこんなにも僕に協力してくれるの?君はケーキが好きみたいだけど、それだけじゃここまでする必要ないよね?

子グマ   ……そこ聞くか?

パティシエ うん。気になる。

子グマ   ……俺は甘いものが好きだ。

パティシエ よく知ってるよ。

子グマ   少し前まで俺は街の方に降りてたんだ。

パティシエ そうなの?

子グマ   ああ。そこでお菓子屋というものを、ケーキというものを初めて見た。俺にとっては衝撃的だった。あんな美しくて美味しいものがこの世の中にはあるんだと。

パティシエ そうなんだ。

子グマ   俺はパティシエになりたいと思った。だけど仲間に言われた。「クマがケーキなんか作れるわけないだろ」って。

パティシエ ……

子グマ   まあわかってたことだけどな。だから俺は夢見ることをやめて、街へ降りることもやめた……そうしたはずだったのに、お前が森の近くでケーキ屋を始めた。

パティシエ ……ごめん。

子グマ   謝ることじゃない。だって俺はお前と一緒にこうしてケーキを作ることができたから。まあ、最初、ほんと客も来ないし、ケーキは地味だしで、見ていてイライラしたけどな。

パティシエ ……ずっと見てたんだ。

子グマ   ああ。ずっと見ていて、もう見ていられなくなって、あの日、この店の扉を開けたんだ。

パティシエ ……

子グマ   まあ結局、お前のおかげで俺はケーキを作ることができた。少しは感謝してるよ。

パティシエ ……「子グマのはちみつチーズケーキ」、絶対完売させよう。

子グマ   ははは。全く、お前は本当に情に流されやすいな。まあお前と一緒に過ごしてみて、そういうところも悪くないなって思えるようのなってきたよ。

パティシエ そう?

子グマ   図に乗りすぎるなよ。

パティシエ 厳しいな。

子グマ   ほら。ケーキはできたんだ。次は街の宣伝用にチラシを作るぞ。

パティシエ えーまだやることあるの?

子グマ   チーズケーキ、完売させるんだろ?

パティシエ ……わかったよ。もう少し頑張る。

子グマ   ああ。頑張れ。


パティシエ 『森の近くに小さなお菓子屋さんがある。そこには1人のパティシエと1匹の子グマが働いている。目玉商品は「子グマのはちみつチーズケーキ」。今日もお店は大賑わいです』

(了)